一つ前の記事「プロデューサー」 で観たコン・ヒョジン さんがあまりに良すぎて、更に古いドラマ「パスタ〜恋ができるまで〜」を観ました。最終的な結論を言うととても面白かったんですが、時代の感覚のあまりの違いに愕然としながらの鑑賞となりました。ドラマは本当に素晴らしいんですけどね、けっこう大好きだったんですが、今の時代なら受け入れられない表現がメッチャ多い!
昨年、悲しい亡くなり方をしたイ・ソンギュンさんが男性側の主演で、演技の質はものすごく高かったです。彼じゃなかったらこのドラマはここまでうまくまとまらなかったんじゃないか、と思うほど素晴らしい演技でした。本当に惜しい俳優さんを亡くしたもんだと思います。
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職人気質の超厳しい「オレ様」シェフ、今なら単なるパワハラ か?
物語は、高級イタリアンレストランの見習いユギョン(コン・ヒョジン )が、3年の下積みを経てようやくフライパンを握らせてもらえるようになったところからスタートします。しかしその時のシェフが事情で退職してしまって、新しくやってきたシェフが、イタリア帰りの若手の超実力派ヒョヌク(イ・ソンギュン)。・・・なんですが、彼は「超オレ様主義」で、非常に気難しい職人気質。気に食わないことがあると、大声で怒鳴り、部下を激しく叱りつけ、出来の悪い料理を皿ごと床に叩きつけたりするわけです。そして着任初日で厨房の女性をなんと全員クビにし、ユギョン(コン・ヒョジン )もクビを宣告されてしまいます。それでもユギョン(コン・ヒョジン )は辞めずに、翌日も負けずに出勤して朝礼の列に並び、食らいついていくんですが・・・
・・・という書き方は、ドラマ公開年の2010年だったらこんな感じになるのかな、という視点で書いてみました笑
でも実際いま観ると、これは酷いパワハラ 笑 たぶん、今の時代だとこういう流れでドラマ作れないでしょうねー。物凄い批判にさらされると思います。どんな描写があるかというと、
◯とにかく理由も言わずに、頭ごなしに怒鳴り散らす
◯怒鳴り散らしていることについて一切なんの説明もしない
◯そして、怒鳴り散らしたあとに返事を強要する
◯将来的にどのような厨房にしていきたいのか、いっさい展望も説明もない
◯なのにひたすら怒鳴り散らす上に、出来た料理をお皿ごと床に叩きつけたりもする
◯従業員を勝手に解雇する
◯オレの厨房に女はいらない、とあからさまに公言する
◯食材を平気でムダにしたり捨てたりする
そしてドラマが進むに連れて、他のキャストからも「女なんだから」というジェンダー に基づく差別的発言が出てきたり、女性の肩に手を回しながら「最近彼氏でもできたのか? なんかかわいくなったじゃん?」みたいなあからさまなセクハラ発言が出てきたりさえもするわけです。(それに対して女性側は少し頬を赤く染めて「いや〜」みたいなテンプレの反応をするわけなんですけど。)
これはしかし、単純な問題でして、明らかに、「時代が違うから」 のひと言で片付く問題だと思います。当時はそういうようなことがまだ社会的にも受け入れられていたんだなー、と思うと、この14年でずいぶん価値観とか社会のありようは変わってきたのね、と、まざまざと実感しながら観てました。
とは言え、全然ダメなシーンもあるんですよ、やっぱり笑
たとえば、食材を保存している冷凍室のドアのトラブルで、ユギョン(コン・ヒョジン )が一晩中冷凍室に閉じ込められる、という事件が起こるんですが、閉じ込められた彼女はさすがに冷凍のスイッチを切ったわけですよ。厨房には誰もいない上に、冷凍室から出られない、ケータイもなくて助けも呼べないから、明らかにそのままだと凍死する状況なんで。これは当たり前で最低限の危機回避だと思うんですが、その行動に対して翌朝ようやく救出できたときの言い草がこれ➡「凍死すればよかったのに!調理師のくせに食材をダメにしやがって」みたいなセリフを投げつけてました。。これはさすがにダメでしょ笑 ドアが壊れて出られなくなった彼女は被害者なのに、食材の弁償の話まで出るし・・・笑
いろいろそういう、いま観ると「ありえないでしょ!」というシーンがけっこう続出します笑 2人で車に乗ってて、ちょっとした喧嘩になって彼女がいったん車から降りるシーンがあるんですが、そのあとなんと彼はそのまま車を走らせて彼女を本当に置いてけぼりにしちゃいましたからね。。。ダメでしょ、それも笑
にもかかわらず、本当に面白くてもう一度観たくなるほど名作ドラマ
上で書いたような今の時代には全くそぐわない、「ダメでしょそれ」のオンパレードなんですけど、結論としてはすごく面白いドラマで、なんならもう一回観たいぐらい。それは第一には、コン・ヒョジン さんが古今東西 のあらゆる映像作品を通じて、おそらく歴代No.1クラスに、ものすごく可愛い というのが大きいと思います。こんなに「かわいいひと」をナチュラ ルに演じられる俳優さんって、本当にこれまで見たことがないかも。彼女はいわゆる「美人顔」や「可愛らしい顔立ち」ではなくて、どっちかって言うと意思の強そうな個性的な顔立ちなんですが、感情が湧き上がってくるときの表情の演技が、本当に凄いんです。とくに、「喜び」を表現するときの、少しはにかみながら顔を赤くして笑みがこぼれる、というような演技がもう絶品。たぶん、男性なら、自分が好きな女の子にはああいう顔して喜んでもらえたらそれだけで幸せになる、という表情が自然に出てくるんですよね。喜びの表現だけじゃなくて、喜怒哀楽の表現が全部、ものすごく自然で、まったくわざとらしさのかけらほども感じさせない、素晴らしい演技でした。というか、見ていて「演技」であることを忘れさせられるほど、彼女の感情表現にこちらも没入してしまいます。
まあ、お相手がイ・ソンギュンさんですからね、それも大きいと思います。すぐに怒鳴り散らす怖い上司の役どころなんですけど、あの顔ですし、彼はふとした仕草や立ち居振る舞いにものすごく雰囲気のある役者さんで、とても美しい人なんですよね。
そんな彼に怒鳴られ続けながらも、歯を食いしばってけなげに全力で仕事を頑張る彼女の姿は、見ていて本当に応援せざるをえないような、素晴らしい演技でした。
ラスト2〜3話は、けっこう涙腺持って行かれます
こういう、いまで言うとパワハラ だらけの表現を、なんとなく「ラブコメ 」として見続けていられるのは、実はOST の力が大きいんです。ドラマではほとんど全編にわたってバックに「なんか楽しそうな音楽」がずっと流れてて、それは大半がインストゥルメンタル なんですよね。ギターだけだったりとか、弦楽だったりとか、ギターと弦楽のハーモニーとか。リズムもテンポのいいものやワルツみたいな3拍子とか。そういう、インストゥルメンタル じゃないときには「♫ラーララ、ラーララ♫」みたいな楽しそうなハミングが入ったりして、要は常に、画面ではなかなかひどいことが行われているのに、あたかも「なにか楽しいアトラク ションでも見ているかのような音楽」が流れているわけです。この音楽がなければ、たぶん見ているのが辛くなってくるんじゃないかな?
で、新しいシェフ(イ・ソンギュン)が来たおかげで厨房は大混乱に陥り、元からいる「国内派」と、シェフが連れてきたイタリア帰りの3人「イタリア派」の深刻な断絶が続き、もうまったく修復不可能な状態に見えるんですが、ドラマ最終盤になって、2つの派がある共通の目標を持つことになって、果たしてどうなるか・・・? その中でコン・ヒョジン さんとイ・ソンギュンさんの恋模様はどうなっていくか・・・?
それにしても、ラスト2 〜3話の作り方は、2010年の作品なのに、さすが韓国ドラマ、という感じです。僕はちょっと涙腺持っていかれ気味になりました。ああいうの、弱いんだよなー、とくにこの歳になると笑 どのあたりかと言うと、「大会」の様子です、見た方用にお伝えすると。
でもドラマだから美しい物語として完結するんですが、仮に現実のこととして考えた場合、迷わず社長を選ぶべきですよ笑 ああいうシェフみたいな男を選ぶと、100%、まちがいなく苦労する上に喧嘩が絶えなくなります笑 恋なんかどんなに長続きしても5年がせいぜいですから、あのあとふたりは別れると思います笑笑 まったくミもフタもないんですけどね笑 もうね、車からおろして置き去りにしてる時点で完全にアウト笑 イ・ソンギュンさんだから絵的に許せるってだけで笑 そこがドラマの持つ力でもあるんですけどね。
ちょっと話はそれますが、女性のカリスマシェフ役としてイ・ハニさんが出てまして、「とても立場が上」の人としてコン・ヒョジン さんに接するんですが、実年齢ではコン・ヒョジン さんが3歳年上で、オンニなんですよね。なんですがドラマの中ではまったくそんな感じはなくて、コン・ヒョジン さんが明らかに歳も社会的地位も下に描かれています。コン・ヒョジン さんから見ると「オンニ」とさえ呼べないぐらい、遠い人。それが本当に自然で、ふたりとも、凄いもんだなと思いました。
クリエイティブな仕事は、やっぱりこうじゃなきゃ、とは強く思う
僕の住んでいる街には、1990年代の後半、とてもおいしいイタリアンレストランがあって、いつ行っても満員の大盛況でした。小さな店で、L 字型のカウンターの中がオープンキッチンになってまして、そこでシェフがひとりで調理をしてる店だったんですよね。カウンターには7席ぐらい、あとテーブルが4人掛け2卓、2人掛け3卓ぐらいだったかな? どのメニューを頼んでもものすごく美味しくて、料金もなかなかリーズナブルで、仕事仲間と2〜3回ぐらい行ったことがあるんですが、まあ本当に抜群に美味しくて隠れた名店でした。
そこのシェフが、いま思い返すと、怒鳴り散らすシェフでした笑
スタッフに「バカヤロー!」とか「ふざけんなコノヤロ!」とか、そういう情緒的な言葉の他に、もちろん業務指示も含めて、なんかずっと怒鳴ってました笑 でも、客はみんな、受け入れてましたね、普通に。「そういう店なんだ」って思ってました。オープンキッチンだから、シェフ、客の目の前にいるんですけどね笑
うーん、時代が違うんですねー。
あと、僕は現役で仕事をしていた頃はクリエイティブな仕事で、いわゆる「シェフ」のポジションでした(クリエイティブ・ディレクターってポジションなんですけど)。そして僕のチームでは、僕のOKが出ないと原稿を外に出せないルールになってまして、スタッフがどんなに徹夜して頑張ったものでも、水準に達してないものや原稿の趣旨をよく理解できていないものに対しては、ダメ出しをする立場でした。ドラマ見ていくうちにイ・ソンギュンさんのシェフのやってることが、「ああ、俺がやってたのと同じだよね」と気づくまでそんなに時間はかからなくて、そこから一気にイ・ソンギュンさん演じるシェフに共感を覚えて、ドラマに没入できたようにも思います。
ものすごく頑張ったのがわかる原稿にダメ出しするとき、つらいんですよ。でも、プロの世界って、「頑張った」ということはまったく評価に値しなくて、全然頑張ってなくても原稿が水準に達してればOKなんですよね。そして実際はあんなに怒鳴り散らしたら、スタッフ誰もついてきません。ドラマだからもちろん誇張表現なんですけど、ダメ出しするときには、まずよくできた点を褒めてあげて、それから、なんでこの原稿だとそのまま出せないのかを、その人のレベルに合わせて言葉を尽くして説明する感じになります。
プライベートでは友達関係だった人にも仕事ではダメ出しするポジションでしたが、お互いプロなので、そこでこじれて問題になったことは、僕の場合はなかったかな。ダメ出しされて泣いちゃうのはまだプロじゃなくて未熟なんです、本当は。ドラマ後半では、そういう立場のシェフの孤独さもうまく表現されていて、なかなか味わいの深いドラマに仕上がったと思います。
まあ、見て損のない一作。
というより、もっとストレートに言うと、オススメです。面白い。
★ドラマの得点 12点★(ドクター・プリズナ ーを10点としたときの評価です)
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